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朝、太陽の光は中庭から降り注ぐ。露は夜にみずみずしい翠苔の上で眠りにつく。谷崎潤一郎が描いた陰翳もまた、片隅に隠れ潜んでいる。時の移り変わりは、家屋の中で最も静かで、最も激しい変化だといえる。

Kamogawa

Gojo五条

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Wuz Houseの真正面には浅くさらさらと流れる鴨川があり、風にたゆたうよく茂った木々が一列に並んでいる。それはまるで小津安二郎監督の映画に出てくる、晩春のワンシーンのようだ。

京都四條南座へは徒歩で数分の距離であり、河川の向こう側に祇園が見える八ツ柳町一帯は、目まぐるしい車の往来もなく、静かで落ち着いた立地だ。かつてここを颯爽と歩いていただろう、芸者や舞妓の痕跡や物語を辿ることもできる。

鴨川側からWuz Houseに入れば、左側にもとの出入り口のほか、細工された門も当時の姿のまま残っていることに気づく。楓の木が植えられた坪庭と、天井から廊下へ差し込む光は、右側のふすまの隙から垣間見ることができる。坪庭を囲むかたちで、客間ロビーとモダンに造り替えられたキッチンがある。一階の裏にある部屋は洋室にリフォームし、二階には畳部屋の和室が二つ連なっている。

階段に沿って上がれば、吹き抜けの天井から降り注ぐ光を浴びることができ、前方の簾は透かして見えるが、目隠しにもなってくれる。浴室にある滑らかなヒノキ風呂と呼応しあうかたちで、洗面台の裏には時の流れを留めた古い壁が残っている。またその横には庭師によってつくられた現代的意匠をくんだ石座石があり、その反対側には生い茂った楓の樹冠が風にたゆたう。

二階の川に面した和室と客間にはテレビはなく、障子を開ければ、華やかな景色が目の前に広がる。桜と紅葉の季節には、市川崑監督の名作『細雪』のような、四季折々の風物と、その儚くも美しい世界観が立ち上がる。

Post Scriptum

屋子的故事

1. Wuz House の歩み

2016年にWuz Houseを購入した後、チームは京都地方法務局に出向き、地籍調査の認証確認を願い出た。

手書きで記載されたその資料は判読が難しく、法務局の職員に内容を読解してもらった結果、大正10年に登記された建物であることが分かった。当時の所有者は玉田花。その後、大よそ8回ほどの転売を経て、2016年12月、WUZの主人の手に渡った。

2. Wuz House周辺の歴史

源氏物語の中の「六条院」

『源氏物語』に登場する六条院とは、平安時代前期に実在した源融の河原院がモデルだと言われており、かつて五条大橋より南西に位置し、Wuz Houseのすぐ近くにあたる。“籬(まがき)の森”の跡地に立つ老木の榎は、その森の木として現存する最後の1本と言われ、源氏物語を今に伝える。

旧遊郭エリア・五条楽園

長らく七条新地と呼ばれたこのエリアは、旧遊郭として名を馳せた。1958年に売春防止法が施行された後、五条楽園と名を変えた。その当時にも、100人程度の芸者、遊女などが働いていた。2010年、非合法に売春行為を行うお茶屋などが摘発され、一斉休業となる。その後、営業は再開されず、歴史は完全に幕を閉じることになった。近年、そんな歴史ある色街の風俗文化が注目を浴びている。

3. 町家からWuz Houseとなるまで

2016年に購入されるまでの約5年間、ここは空き家だった。

初めて家屋に足を踏み入れた時、間取りの造りからして、かつてはお茶屋だったということはすぐ分かった。2016年に購入してから、京都市の旅館業法に基づいた検討を重ね、リノベーションを行った。2018年7月、旅館業の営業の許可を取得したことで、百年もの歴史がある京町家の活用と保存が叶い、Wuz Kamogawaは開業を迎えた。

京町家の多くは、通りに面して店舗スペースを持ち、奥に住居スペースを確保するというスタイルをとっている。通り庭に沿って、「店の間」「台所」「奥の間」を一列に並べた間取りのほか、その奥や中ほどに「坪庭」も併設され、ウナギの寝床とも言われる。

ABOUT

元禄三年の夏に、芭蕉も来て、「四條の川原のすずみとて、夕月夜のころより有明過ぐる比まで、川中に床をならべて、夜すがら酒のみものくひあそぶ。をんなは帯のむすびめいかめしく、をとこは羽織ながう着なして、法師、老人ともに交り、桶屋鍛冶屋の弟子こまで、暇得顔にうたひののしる。さすがに都のけしきなるべし。川かぜや薄がききたる夕すずみ」と書いてゐる。

_「美しさと哀しみと」,『川端康成全集』

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朝、太陽の光は中庭から降り注ぐ。露は夜にみずみずしい翠苔の上で眠りにつく。谷崎潤一郎が描いた陰翳もまた、片隅に隠れ潜んでいる。時の移り変わりは、家屋の中で最も静かで、最も激しい変化だといえる。

NEIGHBORHOOD

数えきれないほどの寺院が散在し、素朴でありながら格式の高さや歴史の重みを今に伝える京都には、これら洗練された意匠のほかにも、古くて新しいモダンな風情を感じることができる。

ACCESS

五条通と河原町通が交差する位置にある八ツ柳町は、京都駅から車で10分圏内にある。最も賑やかな中心地へも徒歩10分ほどで到着でき、歩行、自転車はもちろんのこと、バスでのアクセスも便利である。

BOOK NOW

京都を訪れた なら、まずは京の中心地でありながらも、もの静かな場所から始めるのもいいだろう。檜の香りに包まれながらゆっくりとお湯につかるのもよし、読書に耽るくつろぎのひと時を過ごすのもよし。